商標権侵害が成立するには、いくつかの要件を満たす必要があります。IT・EC事業者の方は、他人の権利を侵害しないようにするために、どのような行為が商標権の侵害になるかを把握し、他人の商標権を侵害しないように注意しなければなりません。また、どのような行為が商標権侵害になるかを把握しておくことによって、逆に自らの権利を適切に行使できるようにもなり、自社の利益を守ることにもつながります。
今回は、商標権侵害の種類と、「商標の使用」について、解説します。
1 商標権侵害とは
どのような行為が商標権の侵害になるかについては、商標法に規定があります。また、商標権を侵害する行為にも、その態様に応じて、数種類のバリュエーションが定められています。
1-1 直接侵害
商標権の直接侵害とは、商標権侵害の最も基本的な侵害パターンの1つです。商標法上、次の2つの行為が商標権の侵害になると定められています(なお、商標法には「直接侵害」という言葉は出てきません。この言葉は、講学上の呼び方です。)。
商標法第25条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
第37条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
1 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
以上のことから、直接侵害が成立するには、次の3つの要件を満たしていることが必要です。
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商標権侵害の要件(直接侵害)
- ・他人の商品・役務や商標と同一・類似の商品・役務や商標であること
- ・商標を「使用」する行為であること
- ・「商標的使用」であること
上記のうち、同一・類似の点は、前回の記事で解説しています。商標の世界での「類似性」とは!?を参照してください。
また、「商標的使用」については、次回の記事で詳しく解説します。
1-2 間接侵害
他人の登録商標と同一・類似の商標を使用する行為のほか、一定の行為については、商標権を侵害する恐れが類型的に高いです。そのため、これらの行為は商標権侵害の予備的行為(これを「間接侵害」といいます。)と考え、直接侵害の場合と同様に差止請求や損害賠償請求の対象とされています(商標法37条2号ないし8号)。
1-3 登録防護標章の使用等の行為
商標権の効力は、上記のとおり、本来であれば同一・類似の商標を使用する行為、同一・類似の商品・役務に使用する行為や、一定の予備的行為などにしか及びません。しかし、非常に有名な商標については、同一・類似でない商品・役務にそれが使用されると、消費者などは出所の誤認混同を起こしてしまいます。
このような出所の誤認混同を防ぐことなどを目的として、商標法は、非常に有名な商標についての商標の効力を、同一・類似でない商品・役務にまで拡大させています。商標権の効力が拡大された標章のことを、登録防護標章といいます(「商標」ではなく「標章」です。)。
2 直接侵害になる「商標の使用」とは
商標権の直接侵害になる行為は、上記のとおり、「商標の使用」です。「商標の使用」については、商標法2条3項に細かく定められています。
商標法2条3項1号 商品又は商品の包装に標章を付する行為
商品に標章を付するなどする行為です。これはイメージしやすいかと思います。これに加え、商品を標章の形状にする行為も含まれます。
なお、プログラムの商品の場合、起動時や作業時のインターフェイスに商標が見えるようにする行為も、1号に該当します。
商標法2条3項2号 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
商品の販売は「譲渡」、レンタルは「引き渡し」にあたります。また、ソフトウェアのダウンロードやストリーミング提供させる行為は、「電気通信回線を通じて提供する行為」にあたります。
商標法2条3項3号 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
例えば、タクシー会社のマークをタクシーに付する行為、銀行の通帳やキャッシュカードに銀行のマークを付する行為が、これに該当します。
商標法2条3項4号 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
タクシーにタクシー会社のマークを付する行為は3号に該当するのですが、そのマークの付されたタクシーでタクシー業を行うことも商標の使用にあたります。
商標法2条3項5号 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
例えば、フラペチーノが美味しいニューヨークスタイルのコーヒーチェーン店で、標章を付したコーヒーメーカー(役務の提供者が利用する物)や、大人気のタンブラー(役務の提供を受ける者が利用する物)を店内に陳列する行為が、これに含まれます。
商標法2条3項6号 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
クリーニング屋が客から預かった衣類にクリーニング屋のロゴ付きのタグをつける行為は、これにあてはまります。
商標法2条3項7号 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
インターネット通販のサイトで商品を販売する際に、画面の中に商標を表示する行為がこれに当たります。
もちろん、実際に商品を販売した場合には2号に該当します。
商標法2条3項8号 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
商標を広告として使用する行為は、8号に該当することになります。
なお、名刺に会社のロゴを付する行為は、商品の広告という性質が一般にはないため、8号には該当しないと考えられています。
3 まとめ
今回は、「商標の使用」について、簡単な具体例も挙げて説明しました。
同じような言い回しが多く、内容の理解が少し大変なところですが、要は「商標をお客さんに見えるように使うこと」が商標の使用であると覚えてください。
次回は、商標権侵害の論点のうち、もっとも重要な考え方である「商標的使用」について、EC事業者の方が注意するべき点を含め解説します。